2018.05.28
クリニック奮闘記
Vol.145 就業規則と解雇
人手不足ではありますが、思う様にスタッフの採用ができていないクリニックは多いと思います。そんな中、数少ない応募者の中から、採用基準を下げてでもスタッフを確保していかなければなりません。面接時の印象とは逆に期待値以上の働きをするスタッフが採用できたときはラッキーですが、期待外れの働きしかできていないスタッフの場合もあるかと思います。だからといって、諸事情を考えると簡単に辞めさせることもできません。本稿では、そんなスタッフを採用したクリニックで起こった事例をご紹介していきます。
A院長「実務経験はあるが、ブランク10年の事務員(50歳)、5年のブランクがある看護師(40歳)の2名を採用しよう。」
奥様 「そうね。二人ともブランクはあるけど、昔取った杵柄で、すぐに感は取り戻すでしょう。」
パートスタッフで採用した2名。ブランクもあることから採用当初は動きもぎこちなかったですが、2月も経つとクリニックの一員として戦力になっています。しかし、この後、今回採用した事務員Bに問題が発生します。仕事勘を取り戻したBさんは、バリバリ働いてはいるものの、他のスタッフとの協調性に問題がある様です。以前は大学病院のクラークもしていたこともあり、仕事のテキパキぶりは他を圧倒しています。これが災いし、他のスタッフと衝突することが多くなってきたのです。
A院長「仕事勘が戻ってきたのはいいけど、うちみたいな小さなクリニックで、人間関係でゴタゴタするとスタッフ全体のモチベーションにも影響してくるなあ。」
そして、A院長の心配した通りのことが起こります。
事務員C「先生、私Bさんとは一緒に仕事できません! 仕事ができるのはわかりますが、自分のやりたいことしかしないんです。」
A院長は、スタッフからの陳情もありましたので、事実関係を確認することにしました。本人だけでなく、他のスタッフからの事情聴取も行います。A院長は、Bさんを追い込んでいる様で嫌な思いもしましたが他のスタッフも大切です。ある程度の事情が確認できたところで、Bさんと再度面談を行い問題点の改善を求めました。その場ではBさんも自分が悪かったと認め、今後は協調性をもって仕事にあたることを約束してくれました。面談後、一月ほど問題はありませんでしたが、時間が経つと元の木阿弥になっています。他のスタッフからのクレームも段々と語気が強くなり、クリニック内は炎上しています。A院長はクリニ
ックを守るために、Bさんに辞めてもらうことにしました。業務的には戦力ダウンになりますので苦渋の選択です。
A院長「Bさんには辞めてもらおうと思うのですが、具体的にはどうしたらいいでしょうか?」
社労士「Aクリニックには就業規則があります。この中の解雇規定に照らして手続きをしていきましょう。」
(まとめ)
スタッフを解雇する場合、実務的な対処法は色々と考えられますが、基本的なところを押さえておきましょう。
・就業規則を作成し、解雇規定を明記しておく(文末の参考資料を参考にして下さい)
・問題となる事例を時系列に整理し、記録しておくこと
・いきなり解雇通告するのでなく、改善命令(指示)の形で、数回対応すること
・即日解雇の場合は30日分の予告手当の支給が必要
事業所から一方的な「解雇」の場合は労働基準監督署への届出が必要となります。事情聴取等も行われますし、助成金の申請などに際して支障をきたすことがあります。実務的な手続きとしては「依願退職」の形がとれる様に、話し合いで解決する努力をして下さい。
―――――――――――――――― 参 考 ――――――――――――――――――
第〇〇条(解雇)
職員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
-
身体又は精神の障害などにより、業務に耐えられないと認められる場合
-
勤務成績または技能が著しく不良で、職員として適正を欠く場合
-
経験を詐称し、その他不正手段によって採用された場合
-
天災事変やその他やむを得ない事由のため、事業を縮小又は事業の継続が不可能となった場合
-
懲戒解雇処分を受けた場合
-
使用期間中において、勤務状態、健康状態、身元保証状況のうち、一又は全部について職員として不適合と認められる場合
-
無断欠勤が10日を超えた場合
-
その他、安全上等の理由により院長が不適合と認めた場合
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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