2018.05.25
クリニック奮闘記
Vol.144 スタッフの雇用を守るということ
クリニックを事業承継(M&A)するということは、医業経営という"事業"を譲渡することを意味します。そこには内装設備や医療機器などの有形資産と、営業権に代表される無形資産が存在し、これらを全て引継ぎするというものです。また営業権を担保するためには一人でも多くの患者を引き継ぐという工夫が必要になりますが、同時にスタッフの雇用も重要テーマの一つになってきます。本稿では、クリニックの事業承継(M&A)をスタッフの雇用にフォーカスにて言及していきたいと思います。
医療法人であればオーナーがチェンジするだけなので、法律的にはスタッフは継続雇用されます。一方、個人診療所の場合の事業承継(M&A)においては、「事業所の廃止→事業所の開設」ということになりますので、スタッフに関しては、「旧クリニック退職→面接→新クリニック就職」という形になり、雇用が約束されている訳ではありません。また、事業承継(M&A)の対象クリニックが複数の事業所を運営している場合、全ての事業所を継続して運営する可能性は100%ではなく、閉鎖することも考えられます。
医療法人A診療所は、外来診療の他に訪問看護ステーション、デイケア、訪問介護事業所(ヘルパーステーション)を併設しています。2年後にB先生に事業承継(M&A)することで基本合意に向けて話が進められています。
A先生「介護事業所については、どの様にお考えですか?」
B先生「決算書を見る限り、クリニック以外の全ての事業所は赤字の様ですね。訪問診療は積極的に行いたいので、訪問看護ステーションは赤字でも残そうと思っていますが、それ以外は、事業計画次第では閉鎖することも考えたいと思っています。」
A先生「長年連れ添ったスタッフなんですが、何とかなりませんかね?」
クリニック部門に関して、毎期1000万円以上の利益を計上していますので、営業権を付けて購入する価値は十分にありました。介護事業に関して営業権の評価はせず、有形資産のみ時価評価を行っています。B先生の考えでは事業承継(M&A)後は閉鎖する方向で考えていましたが、A先生から懇願されたこともあり、事業継続の方法を検討してみました。最終的な結論としては、継承時期の2年間延期です。その間、赤字部門のテコ入れを行い、黒字化を図ろうと考えました。A先生は患者ニーズに応えるべく事業拡大してきたものの、そこには「経営」という概念は根付いていませんでした。幸い、クリニックとの相乗効果を再検討、地域連携に向けて営業を組み立て直すことで黒字化に成功したため、事業承継(M&A)は無事に終えることができました。
(まとめ)
クリニックを譲渡する側(売手)の先生の最後の大仕事は、地域の患者を引継ぎすることと、個人診療所であれ医療法人であれ、スタッフの雇用を守ることにあると考えています。能力があっても新院長の方針に合わない事も考えられます。事業承継(M&A)のタイミング、スタッフの再就職への配慮も、先生方が考えなければならないテーマであると認識してください。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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