2018.04.18
クリニック奮闘記
Vol.117 クリニックの継承とは『患者の継承』①
新規開業を検討している先生方にとって、『クリニックの事業承継(M&A)』は収益基盤ができているリスクの少ない案件であると認識されています。そもそも事業承継(M&A)とは、事業所(クリニッッく)の全てを継承するのが原則で、その中でも最もプライオリティの高いのが、『患者の継承』です。高収益のクリニックであればあるほど、継承方法はテクニカルになり時間もかかります。本稿では、クリニックの事業承継(M&A)において、患者の引継ぎの苦労を、実例を基に検証していきたいと思います。
A医師はコンサルタントの紹介で、ある内科クリニックの継承を検討中です。対象クリニックは年間の医業収入は1億円を超え、地元では超有名なクリニック。院長は高齢で後継者がいないため、第三者のA医師に継承する方向で話が進められています。
A医師 「こちらのクリニックは非常勤のドクターが2名いらっしゃるのですね。」
コンサル「院長は総合内科、非常勤のそれぞれのドクターは糖尿病と循環器の専門です。」
A医師 「基本は院長の総合内科で対応して、そこから各専門のドクターに任せていくスタイルということですね。」
このクリニックを事業承継しようとした場合、クリアーしないといけない問題がいくつかあります。A医師は糖尿病の専門医です。院長の総合内科と糖尿病の患者の対応は問題ないですが、循環器の患者対応に不安が残ります。
A医師 「総合内科を含めて、3人のドクターの収入構成を調べてもらえないでしょうか?」
電子カルテから、3部門(総合内科、糖尿病内科、循環器内科)のデータの抽出を行います。医業収入、レセプト件数、患者数の3要素のデータを抽出し比較検証することにしました。抽出したデータは次の通りです。
(総合内科) 500万円 500件 1,000人 売上比率(58%)
(糖尿病内科)250万円 125件 125人 (30%)
(循環器内科)100万円 50件 80人 (12%)
A医師 「僕の専門外の循環器の収入は12%の構成比。これをどう考えるか?」
コンサル「循環器の売上を考えると、循環器内科をやめても問題ないかと思います。」
A医師 「いや、循環器内科での受診は結果であって、その入り口である初診時は総合内科での対応を考
えると、簡単にやめる決断はできないなぁ。」
A医師は、3部門が連携しているからこそ、1億円超の医業収入があるのだと考えています。専門外だからといって循環内科をやめることで、クリニック全体の収入規模がシュリンクするリスクが頭を駆け巡ります。
(まとめ)
全ての経営判断は数値に基づいて判断されなくてはなりません。本件における問題点の抽出方法としては、まず各部門のレセプト分析を行います。必要があれば、判断に必要な要素に到達するまで、どんどん深堀りしていく慎重さがあってもいいと思います。次回は、A医師の最終判断について迫っていきたいと思います。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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