2018.04.06
クリニック奮闘記
Vol.109 新規開業と事業承継(M&A)のコスト比較
競合クリニックがひしめき合う中で、クリニックを開業する誰もが成功するという時代ではなくなってきました。また、開業すると設備投資による借入金の返済だけでなく、自分自身の退職金の積立やリタイヤ後の年金に至るまで、自助努力で蓄えていかなければなりませんので、勤務医以上に稼いでいかなければ生活レベルを維持していけないという現実もあります。リスクを抑えた開業スタイルの一つとして「事業承継(継承開業またはM&A)という」があります。一般的に新規で開業するよりもトータルコストが抑えられると考えられていますが、その実態は如何なものでしょうか?本稿では、実際の事例に基づき、事業承継開業(M&A)と新規開業の場合のコスト比較を検証してみたいと思います。
A医師は縁あって、医局の大先輩のクリニックをM&Aにより継承開業することになりました。クリニックを新規開業するならリスクと投資額が少ない「継承開業」と考えていたので、今回の商談は渡りに船の話しでした。
A医師「開業して30年も経つと、さすがに内装もくたびれてるなあ。バリアフリーでもないので、車椅子
の対応も考えないといけないなぁ。それから・・・・。」
医局の後輩だということもあり格安で譲り受けたクリニックではありますが、色々と手を加えないといけない所がある様です。そのままでもクリニックとして利用することはできますが、Aクリニックとして、これから30年診療するなら、今の内に改装しておく方がベターであるという判断です。改装箇所は次の通りです。
・受付をオープンカウンターにする
・院外処方に切り替えるため、調剤所はカルテ庫として事務のバックヤードに変更する
・入口から診察室までバリアフリー対応に変更する
・トイレは身障者対応
・電子カルテ他、医療機器の連携のためにLAN配線が必要。そのためLAN配線用の配管工事が必要と
なり、一部の壁と天井を取り壊しの上、新設工事を行う。
・エアコンも耐用年数に不安があるため、全てを入れ替え
・レントゲン装置はCR対応とするため、現像室を資料保管庫に変更する。
(まとめ)
クリニックを継承(M&A)する場合、内装設備をそのまま利用するという前提であれば、医師会入会金を除けば、当座の運転資金(500万円程度)あれば開業できます。ところが、内装設備を改修するとした場合は、内容によっては新規開業時の内装工事よりもコスト高になることがあります。つまり、スケルトン状態であれば新築工事からスタートしますが、取り壊し費用が発生するのであれば、工事費用はプラスアルファになってしまいます。目安としては坪当たりの取り壊し費用は10万円と見積もっておいて下さい。医療機器について追加購入の必要がなければ、一定数の患者が付いた状態からのスタートで、トータルコストも抑えられる事業承継(M&A)による開業は、投資予算の観点からはメリットの大きな開業モデルであると言えます。但し、患者については100%の引継ぎは出来ないものと考え、目減りすることを想定した事業計画を立案する様にした方がよいでしょう。
【一般的な内科の新規開業パターン】
運転資金 1500万円
内装設備 2000万円
医療機器 1500万円
医師会入会金 400万円
什器備品 500万円
その他費用 100万円
合計 6000万円
【事業承継による内科クリニックの開業パターン】
運転資金 500万円
内装設備の解体 200万円
内装設備の新築 2000万円
医師会入会金 400万円
什器備品 300万円 ※医療機器については追加購入なし
その他費用 100万円
合計 3500万円
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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