2018.07.27
クリニック奮闘記
Vol.189 クリニックの値段『診療行為 編』
少し前ですが、テレビ東京系列の番組で江口洋介さんが主演の『ヘッドハンター』というドラマがありました。ヘッドハンティング業界の裏側を鋭く抉ったドラマでしたが、その劇中でヘッドハンティングのターゲットに対して、『あなたの値段、知りたいと思いませんか?』というセリフがあります。自分の給料というのは、会社の中での評価に基づくものですが、ビジネス業界全体としてみた場合の自分の市場価値を問うています。同じ様に先生方のクリニックも「市場価値」というものがあり、その価値に基づいて売買されいきます。本稿では、事業承継(M&A)で算出されるクリニックの値段について、その中味を検討してみたいと思います。『先生のクリニックの値段、知りたいと思いませんか?』
A先生は、内科医として40年近く地域医療に根差してきました。後継者もいないため閉院することも考えていたのですが、ある医療コンサルタントとの出会いによりM&A(事業譲渡)する方向を模索することとなりました。
A先生 「後継者もいないから閉院しようと思っていたのだが・・・・」
コンサル「最近の若い先生方は、承継できるクリニックがないか探しています。先生のクリニックは患者も多いので、市場価値は高いと思います。先生のクリニックの値段、知りたいと思いませんか?」
A先生 「価値があるなんて考えていなかったよ。お話しを聞かせてもらえないかね。」
こうして事業譲渡(M&A)することを前提に、クリニックの市場価値(売却可能額)の計算に取りかかりました。Aクリニックは持分のある医療法人社団で、30年の歴史があります。手堅く節税対策も講じてきたため、内部留保も厚く、医療法人の時価評価は1億円を超えていきます。1億円の価値があると評価されたとしても、買手の事情によっては低い評価しかできない場合があります。それはどんな場合でしょうか?
コンビニを例に考えてみましょう。商品を仕入れ、来店した人に対し物品を販売していきます。利益率20%の1000円の商品を、一日に1000個販売するとします。
1000円×20%×1000個×365日=7300万円 となります。
不特定多数の来店者に決まった商品を販売していくというこのビジネスモデルでは、経営者が変わっても現場は変わらないため、来店客数と利益には一定の普遍性が認められます。従って上記の経済価値は市場価値として認知されても問題がありません。
ところが、クリニックの場合は医療サービスの内容は、医師個人のスキルによるところが大きく、一概に引継ぎができるものとは考えにくいのです。仮に買手のドクターが、診療行為そのもの(検査や診断プロセス、薬の処方に至るまで)について引継ぎ可能であると判断されれば、1億円の価値は認められます。ところが、診断技術等が未熟、あるいは多少の専門外の領域が含まれる様な場合は、全てを継承することができないため、この時の買手ドクターにとっての価値は低くなります。この様にクリニックの市場価値というのは、市場における絶対的価値ではなく、"相対的価値"であるという認識が必要です。先のコンビニでも同様のことが言えますが、医療サービスの質的要素と、規格商品の販売という点において両者には差があります。
(まとめ)
以上の様にクリニックの価値というものは、売手、買手の事情により市場価値は変動するものです。このことは収入の中味が分析できているからこそ言えるのであって、中味の精査ができていなければ高い買い物をしてしまうことにもつながります。申し上げたいことは、表面的な数字だけでなく、収入を司っている根本部分、つまりドクターの診療行為の中味を確認しなければ、M&Aは危険な取引であるということを知って頂きたいのです。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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