2018.08.08
クリニック奮闘記
Vol.197 施設が老朽化したクリニックのM&A
A内科医院はビルに2階で診療を行っていますが、同じビルの1階でデイケアを運営してきました。院長は70歳を越え、そろそろ引退を考えています。後継者がいないため第三者への承継(M&A)を考えていますが、入居しているビルも老朽化しているため、そのまま継承できるかどうかも問題です。実例に基づいて、本テーマについて掘り下げてみたいと思います。
A院長はクリニックの第三者継承をするために、専門コンサルタントと打合せ中です。問題点として挙がっている項目は次の通りです。
・老朽化しているビルで、このままクリニックを継承することの是非
・赤字のデイケアを一緒に継承してもらうことができるか?
ビルの老朽化によるトラブルとしては、エレベーターの故障が頻繁に起こること、30年以上前のビルであるためバリアフリー対応ができていない、ということがあります。クリニックの内装はリニューアルすればよいのですが、本体についてはオーナーがメンテナンスすべき問題であるため、テナントとしては要求するぐらいしかできません。このことを前提に継承してくれるドクターであれば問題ありませんが、現在商談中のドクターは、この点について難色を示しているのです。選択肢としては、メンテナンスに関してビルオーナーに要望書を提出し、具体的な項目を挙げて改善してもらうこと、もしくは近隣に移転先を探してみることの2点を検討中です。
オーナーとの協議の上で次のことを改善してもよいと回答がありました。但し、原契約の普通借家契約ではなく、20年の定期借家契約にすることが条件となっています。これはオーナーとして、設備投資の回収を確実に行いたいとの考えからくるものです。当初の建築コストは十分に回収できているため、家賃への転嫁は行わないと言われています。
(第1項目:エレベーターの故障等について)
エレベーター篭を含めて全ての設備を入れ替える。
(第2項目:バリアフリー対応について)
ビルエントランスの段差解消のため回収工事を行う。共用部のトイレについても身障者対応のものに回収する。
次の選択肢として、近隣へ移転することを検討してみます。百メートル先に50坪の空きテナントがあります。1階店舗にも関わらず、家賃が手頃である事と、分割して薬局も入居させることができるのは魅力的です。
(まとめ)
結果としては近隣へ移転することを前提に、クリニックを継承(M&A)することになりました。新築工事に関しては、当然買主ドクターの費用で行いますが、患者の引継ぎによる営業譲渡の形をとることにしました。新クリニックの開設月から保険診療を開設するまでの一月間は、両クリニックで勤務しているという形態をとり、診察が途切れない様にします。残念ながらデイケアについては閉鎖することにしました。外来診療に集中したいという買手ドクターのニーズによるものです。ビルオーナーは改修工事を快諾してくれたものの、これから30年クリニックを営業していくことを考えると、老朽化したビルでの継承は選択肢から外されることになりました。さらにもう一つの理由はビルオーナーが企業でなかったことがあります。個人の場合は相続が発生した際に、相続人の恣意が働く可能性があります。契約上では一定の借主の権利が保証されていますが、将来に対するリスクはゼロではありません。この2点の理由から移転という選択肢を選んだのでした。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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