2018.08.22
クリニック奮闘記
Vol.205 後継者選びは院長の責任
クリニックの事業承継(M&A)で一番難しいのは、金額交渉ではなく売手ドクターと買手ドクターの相性にあるといってもいいでしょう。基本合意書の締結では、譲渡金額、時期、労務問題、その他の付帯条件を決めていきます。この時点では大まかな契約内容であることが多く、ディテールは追々決めていきましょうというスタイルです。そのため、話を進めていくにあたって、お互いが「こんなはずじゃなかった!」と思う様になり決裂します。そして、その根底にあるのは信頼関係の破綻なのです。本稿では事業承継(M&A)が上手くいかない理由が売手ドクターにある場合をご紹介したいと思います。
A精神科クリニックの院長は御年80歳。開業して40年の超ベテラン院長です。国立大学出身の院長は学究肌で、忙しい診療の間を縫って各地の勉強会にも積極的に参加する精力ぶりです。しかし、年齢のこともあり、流石に若い頃の様なシャープな切れ味は色あせてきました。ある日、院長は事務長と後継者について話をする機会がありました。
事務長「院長、体力的にも少しきつくなっていると思うのですが、若い先生にも診療を願いしては如何ですか?2診体制にすれば、少しは楽になると思いますが・・。」
A院長「そうだね。私の後継者も考えないといけないしね。早速、ドクターを探してみてくれないかな?」
こうして事務長は院長の出身大学のコネクションで、一人のドクターの紹介を受けました。このB先生は近い将来開業も視野に入れて、このクリニックで働きたいという意向があります。もちろんA院長もそのことを折り込み済みで、自分の後継者として受け入れることにしました。ところが、B先生が勤務して半年した頃に問題が勃発しました。内容は薬の処方についてです。
A院長「B先生!この患者は私が長年診察しているが、処方を勝手に変えてもらったらこまるじゃないか!」
B先生「この病気に対しては、新しい●●という新薬の効果が認められていると学会でも報告があります。試してみる価値があると思ったのですが・・・。」
A院長「そんなことは私も承知している。処方を変更しない理由があることを理解して欲しい。」
こんなトラブルが最近になって増えてきました。A院長はもちろん学会等にも積極的に参加してはいますが、全てを知っている訳ではありません。基本は自分が学んできた医療(診療)を踏襲していくのがやっとです。30年前の医療と今の医療とでは中味が全く違うこともあり、診療方針についても衝突が増えました。
結果的にB先生はアルバイトを辞めることになり、Aクリニックの後継者問題も頓挫する形となったのです。
(まとめ)
事例にある様に、診療方針の違いにより関係が破綻することはよくあります。双方が柔軟に対応することが一番の解決策にはなるのですが、売手ドクターが妥協することはないと考えなければなりません。事業承継(M&A)する場合は、売手ドクターの意向を最大限考慮するところから入ります。数十年経営してきたクリニックのスタイルを否定されたらどう思うでしょうか?買手ドクターは医師としては優秀かもしれませんが経営は素人です。方針を変更するとなると患者に不安を与える可能性もあります。方針転換は徐々に行うべきで、基本は譲渡完了後までは、前院長の方針を踏襲した方がよいでしょう。これは診療に関することだけではなく、院内のレイアウトや装飾品など同様です。モノには思い入れがあります。契約では許される行為であっても、買手ドクターが自由にされることに少なからず違和感はある様です。法的な責任はありませんが、心情的な部分に対する配慮はした方がいいのではないかと思います。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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