2018.10.09
クリニック奮闘記
Vol.230 不動産付きでクリニックを承継するには?
クリニックの事業承継(M&A)は、画一的な取引が難しく、個別対応によるオーダーメイドが基本です。譲渡元のクリニックの院長の考えと、継承希望のドクターの考え方を調整し、現実的な内容に落とし込んでいく作業が必要です。教科書通りの取引ができれば、労することなく継承(M&A)はスムーズに行えますが、実務においてはイレギュラーな対応の方が多くなります。本稿は、クリニックの土地建物をまとめて売却(継承)したいという希望に対して、実務的な対応について検証してみました。
後継者がいない医療法人Aクリニックの院長は、80歳を前にしてクリニックを譲渡(M&A)することを決意しました。今でも月のレセプトは500件を超えており、月収も600万円近くあります。(院外処方)診療所建物は医療法人の所有、土地は院長の個人所有で医療法人に賃貸している状態です。A先生の希望は、土地建物と一緒に医療法人を譲りたいというものです。医療法人の時価は4000万円ですが、不動産を一緒にすると1億円を超える価格になります。医療機関の専門仲介業者に依頼して、ほどなく一人のドクター(B医師)の紹介を受けました。面談では終始和やかな雰囲気で、A院長も好印象を持たれたようです。契約に向けて前向きな話で進めましょう!ということになりましたので、B医師は銀行に融資の相談に行きました。ところが、銀行の対応は意外なものでした。
銀行
「医療法人の売値は4000万円と運転資金の1000万円の合計5000万円はご融資可能ですが、不動産の購入資金については考えさせて下さい。」
クリニックの購入するための必要資金の調達が上手くいかなかったB医師は、コンサルタントに善後策を相談することにしました。
B医師
「銀行の見解は、医療法人に対する5000万円の融資が限界だと言っています。現状は600万円の収入がありますが、歩留まりは70%程度に考えているとのことです。更に私の自宅を担保供与する様に言われています。」
コンサルタント
「基本的に営業権は、融資の担保にならないとするのが金融機関のスタンスですから、その説明は理解できます。A医師が希望する不動産の売却希望額は時価を上回っていることもあり、融資を渋ってるのでしょう。A先生にも相談してみましょう。」
(まとめ)
他の金融機関にも相談にいきましたが、同じ結果しか出ませんでしたので、協議の上で土地建物については、売買契約から外すことになりました。B先生には不動産の購入の意思がありますので、事業継承(M&A)後、収益が安定し実績が評価された時に再交渉するということになりました。不動産の売却を絶対条件にしてしまうと、契約まで至らなかった可能性もあります。購入希望の候補ドクターが複数いる場合は、条件に合う相手も見つかるかもしれませんが、その様な状況が期待できることは、そうそうあるものではありません。契約に際して、時間に余裕がある場合は、柔軟な対応が必要な時もあります。ご検討下さい。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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