2018.10.11
クリニック奮闘記
Vol.232 引継ぎ中のスタッフ給与は、新旧どちらで負担する?
クリニックの事業承継(M&A)では、大まかな方針を固めて基本合意書を締結した後であってもトラブルになることがあります。具体的に契約書に取り決めた内容であれば、約定通りに判断すればいいのですが、契約書に記載がない場合、または口約束で決めてしまっている場合は簡単には収まりません。本稿では、スタッフの給与の負担を巡るトラブルをご紹介したいと思います。
ある地方の50床の病院の閉院時のお話しです。病院の規模としては小規模ですが、外来患者は多く、地域にはなくてはならない医療機関の一つです。内科、整形、皮膚科、耳鼻科の診療科の先生は病院前に新しく建築される医療ビルで開業することになっており、全ての患者は継承されていきます。殆どの診療科は同時にオープンしますが、皮膚科のみ2ケ遅れで開業することになっています。またスタッフについては、病院で勤務していたスタッフがそのまま各診療科に割り振られていくことになっており、経営形態はバラバラになりますが、中身は病院時代と変わりません。建物が変わってもスタッフの顔ぶれは変わらない様にすることで、患者の安心感を得ようとする配慮があります。しかし皮膚科で勤務する予定のスタッフは、2ケ月のブランクが空いてしまいます。一月前からはオープニング研修を行いますが、それでも一月のブランクが空いてしまいます。そこで、同じメーカーのカルテを利用している耳鼻科の院長と相談した結果、皮膚科がオープンするまでの間、研修を兼ねて耳鼻科で勤務してもらうことになったのです。2ケ月間、患者に不便を掛けることになるのは残念でしたが、せめてスタッフだけでもトレーニングできれば有難い、と皮膚科の院長は考えていました。耳鼻科の院長も人手がある方が有難いので、快く受け入れてもらえました。
ここから問題が発生します。この2ケ月間のスタッフの給料の支払を誰がするのかを確認していなかったのです。耳鼻科の院長としては、研修として受け入れているので給料を支払うことは考えていません。逆に皮膚科の院長は、研修とはいってもスタッフとして働いているのだから、耳鼻科で負担すべきだと主張します。どちらの言い分も間違いではありませんが、事前に取り決めをしていないことに問題がありました。現場のスタッフは、今までは同じ病院でスタッフとして勤務していたので仲間意識が強く、別々のクリニックで勤務することになっても、"〇〇病院で働いているスタッフ"の意識が非常に強い。耳鼻科のスタッフとして一生懸命働き戦力にもなっています。"戦力"と"研修"というお互いのクリニックにとって利するところがありますので、落しどころとしては、折半するというところになりそうです。
(まとめ)
ビジネスの世界は慣れ合いではやり切れません。当事者だけでなく第三者に対して影響が及ぶことが想定される場合、特にお金の問題が発生する場合は、慎重を期して文書に残しておく必要があります。本稿の事例の場合、医療ビルという寄合所帯のため、反目し合っていては患者の不利益にもなってしまいます。幸い、落しどころがありましたので、事なきを得ましたが、上手く収まらない事の方が多いので注意して下さい。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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