2019.02.26
クリニック奮闘記
Vol.320 複数候補の買手との交渉の仕方
事業譲渡を行う場合、売手の気持ちとすれば少しでもいい条件で契約したいと思いものです。クリニックの事業承継(M&A)はマーケットとしては小規模で、売買の情報はそれ程多い訳ではありません。従って、基本的には売主と買主が一対一で条件を詰めていくのが一般的です。ところが、ごく稀に複数の買手希望のドクターがバッティングすることがあります。譲渡する側としては嬉しい材料ではありますが、注意しなければならないこともあります。本稿では、1つの失敗事例をご紹介させて頂きたいと思います。
医療法人であるAクリニックの院長は体調上の理由により、第三者に経営権を譲渡ることにしました。かねてより買手候補は直ぐに見つからないと聞いていたため、複数の仲介会社に情報を流しています。その中の1社から買手候補が見つかったという連絡が入りました。
早速、具体的な条件を詰めていこうということになり、基本合意に向けて打ち合わせに入ります。A院長の希望の条件は以下の通りです。
譲渡金額 個人名義 土地5000万円 建物2000万円
法人資産 内装工事1000万円 医療機器他2000万円 営業権3000万円
(総額)1億3000万円
今回の案件で難しいのは不動産が含まれていることです。医療法人の資産だけですと6000万円なのですが、不動産を含む取引金額は1億3000万円です。問題は買手のドクターが資金調達できるか否かにかかっています。
買手ドクターB
「運転資金を入れると1億5000万円は必要だな。いくら患者が付いているとはいえ、この投資は大きすぎる。」
コンサルタントB-1
「先生、不動産については賃貸契約を前提に、事業が安定した段階で買い取るという形で交渉してみたいと思います。」
A先生は、患者がいる間に事業継承を終えたいという考えから、賃貸契約でまとめる報告で納得した様です。不動産はいずれ買い取ってもらえるのであれば、問題なしと考えてのことです。ところが、基本合意契約を作成中に、別の業者から不動産をまとめて購入入したいと申し出があったのです。A院長は、当初の希望が叶うのならCドクターと契約したいと考え、Bドクターとの約束を反故にしました。(A先生とB先生間では契約の意思表示をしていたので、問題ある行為ではあります)落胆したのはB先生です。しかしコンサルタントの助言もあって、直ぐに次の物件で検討を始め、何とかいい方向に向かっていきそうな感じになっています。この時に問題が発生しました。実はC先生がA先生との契約を断ってきたのです。理由は資金調達の不首尾です。困ったA先生はB先生に連絡し、もう一度契約を進めたい意向を伝えましたが、時すでに遅しです。
(まとめ)
契約ごとは一件一件、詰めていくのが原則です。A先生の失敗はC先生の資金調達を楽観視していたことが一因です。B先生との契約を反故にするのであれば、C先生の資金調達が可能になった段階で意思決定すべきでした。『ちょっとでもいい条件で契約したい』と爪を伸ばしたのが失敗でした。契約書を交わして金銭の授受が完了するまでは、細心の注意が必要であるということを肝に銘じてなければなりません。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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