Vol.241　継承後の建物設備のリユース

クリニックを事業承継する場合、同じ診療科目で引継ぎするのが大原則です。患者の引継ぎは言うまでもありませんが、内装設備や医療機器も現状有姿で引き継ぐためです。ところが必ずしもセオリー通りにいくとは限りません。内科のクリニックを"内科・小児科"として承継する場合、医療機器等については若干の追加購入で対応できますが、内装設備はどうでしょうか？継承前のクリニックに隔離室があって、待合室にもベビーカーを置くスペースがあればいいのですが、そんなに都合よくはいきません。我慢して使用するか、改装工事が必要になってきます。本稿では、継承後の建物設備のリユースについていくつかの事例をご紹介したいとも思います。

 

（事例１）内科診療所　→　内科、小児科

導入部分で取り上げた事例です。小児科を追加することにより、隔離室とベビーカー置場が必要になります。当然、内科よりも大きなスペースが必要になる訳ですが、この２つを増設することは現実的にはかなり困難です。診察室が複数ある場合や処置室の一部のベッドを転用することも検討しましょう。トイレの仕様も子供向けに改装する必要があるでしょう。乳幼児のおむつ替えのスペースの確保も検討しなければなりません。

 

（事例２）産婦人科　→　外科、整形外科、眼科

かつては有床の産婦人科で、継承前には婦人科外来のみを行っているクリニックがあります。1階に診察室と処置室とオペ室があり、2階には新生児室、病室というレイアウトです。お産を止めた段階で２階スペースはスタッフルームとして利用していることが多いのですが、他の診療科目に転用する場合には、このスペースの有効活用を考えたいものです。オペ室等については外科（整形外科）であれば、小手術用に、そのまま利用することができます。眼科に転用し、白内障の手術等に利用するのであれば、クリーンルームにする必要がありますので、費用をかけて改修工事をする必要があります。殆ど新築するのと変わらない費用がかかると思われます。問題は２階スペースの利用方法です。デイケアやリハビリスペースとしての利用が最もポピュラーでしょう。この場合、患者の動線が非常に長くなりますので、安全上の観点から監視カメラの設置が好ましいと考えられます。また眼科で利用する場合、1階のオペ室は検査室等に改修し、2階にオペ室とリカバリールームを新築するという考え方もできます。

 

（まとめ）

以上、２つの事例をご紹介させて頂きましたが、継承するクリニックの大半は20年以上前のレイアウトです。当時と今では、同じ診療科目であっても、クリニックの設計概念が根本から異なっています。電子カルテだけでなく、殆ど全ての医療器が電子化されており、患者及びスタッフの動線も随分変わってくるでしょう。クリニックの事業承継（M&A）の場合、患者だけでなく設備もそのまま継承することで、コストダウンが図れるメリットはありますが、全面改装する必要がある場合もあります。

メディカルタクト 代表コンサルタント　　柳　　尚信

 

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