2019.03.08
クリニック奮闘記
Vol.328 最後は感情論になってしまう
クリニックの事業承継(M&A)を行っていく上で、譲渡金額、譲渡時期などの大枠の取り決めを行い"基本合意契約"という形で双方の意思表示の確認を行います。その後、詳細な条件を実務レベルで決めていくのですが、細部の取り決めを行っている最中に破談になるケースが少なくありません。契約当事者双方の様々な思惑がある中で本契約の内容を詰めていくのですが、意外に"感情的"なモツレで破談になってしまいます。本稿では実際の事例を基にしたお話しをご紹介していきたいと思います。
A先生はB先生に対して、自分のクリニックを営業譲渡することになりました。仲介者としてはAクリニックのC顧問税理士及びD司法書士が入ることになっています。B先生はC税理士の紹介であるため、人的な関係性においてもC税理士の仲介は適任であると考えられます。譲渡時期と譲渡金額についてはスムーズに合意に至ったため、すぐに"基本合意契約書"を締結することになりました。後は患者とスタッフの引継ぎを行いながら、細かな条件設定を決めていこうということになっています。
B先生
「スタッフについては、Aクリニックの賃金規定によって、給料賞与の処遇を決めていきます。退職金は規定がないので検討事項ですね。」
A先生
「退職が見込まれるのは、今後のことなのでB先生が対応してもらえますか?」
B先生
「在職期間に応じて、費用負担を考えるべきではないでしょうか?」
今回、引き合いに出されたのはスタッフの退職金でした。Aクリニックの権利が移転する前は、A先生の経営体制になっています。従って原則的にはこの期間における退職金の"要積立額(退職したとした場合に支払わなければならない金額)"については、A先生の責任範囲と考えます。スタッフ個々人の"要積立額"を計算した上で、合計額をB先生に引き継ぐということになります。本文中にある様に、『退職したときにB先生が対応して下さい』というのは一般的には通用しません。このやり取りを切り口に、税務調査時の修正が発生した場合の処理方法や、細かなところでは水道光熱費の負担について、双方の認識のズレが目立つ様になってきました。今回の基本合意契約の内容そのものは、A先生にとっては好条件であったし、B先生にとってもリスクを軽減した開業モデルであったため、相思相愛の契約であったはずです。ところが、細かい条件設定に辟易し始めたA先生は、『こんな相手にはクリニックを譲りたくない!!』という気持ちが強くなっていきます。結果的に交渉は決裂してしまい、今回の契約は破談してしまいました。
(まとめ)
総論OK、各論NGは契約ごとによくあります。話を進めていく過程において、『最終目的(契約で一番大事に考えること)』を双方が念頭に置くことが求められます。これは当事者間の調整役であるコーディネーター役の腕の見せ所でもあります。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
◆クリニックM&A(事業承継) 関連のバックナンバー◆
Vol.65迷惑をかけないクリニック経営
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report198.html
Vol.77営業権は融資の担保にはならない
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report221.html
Vol.78引継ぎ資産(在庫、減価償却資産)は現場で確認
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report222.html
Vol.80その医療法人、承継して大丈夫ですか?1(過去の脱税歴ほか)
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report230.html
Vol.81その医療法人、承継して大丈夫ですか?2(過去の行政指導)
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report231.html
Vol.87その医療法人、承継して大丈夫ですか?3(架空請求)
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report244.html
Vol.91 引継ぎ期間は1ケ月?(M&A後の保険請求の遡及手続き)
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report255.html
Vol.96施設基準の引継ぎも忘れずに
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report265.html
Vol.100相対取引きは事故のもと(クリニックの事業承継:M&A編)
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report276.html
Vol.106 クリニックの後継者問題の考え方 ~スケジュール編~
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report287.html
Vol.109 新規開業と事業承継(M&A)のコスト比較
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report295.html
Vol.117 クリニックの継承とは『患者の継承』①
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report311.html
Vol.118 クリニックの継承とは『患者の継承』②
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report312.html
Vol.119 事業承継後のクリニック移転
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report317.html
Vol.120 スタッフの集団退職!?
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report320.html
Vol.123 事業承継の相手方は利益相反関係にある
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report323.html
Vol.129基本合意締結後のトラブル!
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report335.html
Vol.134 親子間継承(M&A)に至る選択肢は3つ!
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report346.html
Vol.144 スタッフの雇用を守るということ
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report368.html
Vol.146 事業承継(M&A)後の取引業者の見直し
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report377.html
Vol.158 患者引継ぎの為の『不同意書』
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report403.html
Vol.169 交渉決裂!! 訴訟が唯一の解決策になり得るか?
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report427.html
Vol.177 承継(継承)クリニックを探し続けて・・・・
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report447.html
Vol.189 クリニックの値段『診療行為 編』
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report478.html
Vol.197 施設が老朽化したクリニックのM&A
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report495.html
Vol.200 売り手クリニックの情報収集の方法
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report505.html
Vol.205 後継者選びは院長の責任
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report513.html
Vol.230 不動産付きでクリニックを承継するには?
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report583.html
Vol.232 引継ぎ中のスタッフ給与は、新旧どちらで負担する?
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report589.html
Vol.234 クリニックの値段『収益力 編』
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report595.html
Vol.241継承後の建物設備のリユース
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report611.html
Vol.255 事業承継(M&A)は時間との闘い
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report638.html
Vol.271 交渉の優先順位
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report677.html
Vol.272 理想的な患者の引継ぎ方
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report678.html
Vol.274 医療機器は現物で確認!
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report686.html
Vol.276 条件交渉の進め方
https://medical-takt.com/backnumber/2018/report689.html
Vol.294 医療法人格と事業拡大
https://medical-takt.com/backnumber/2019/report730.html
Vol.320 複数候補の買手との交渉の仕方
https://medical-takt.com/backnumber/2019/report795.html
Vol.323 休診中のクリニックの営業権評価
https://medical-takt.com/backnumber/2019/report798.html
Vol.324 承継時(M&A)に会計事務所を変えるということ
https://medical-takt.com/backnumber/2019/report803.html
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
本格的なコンサルティングの前に、専門家によるノウハウをWEB上で体験して頂けます。無料版ではありますが、先生方の経営の意思決定に役立つ内容をご提供したいと考えています。個別相談にも対応していますので、登録のご検討を宜しくお願い致します。
【無料コンサルティングレポート】登録はこちらから
→ https://medical-takt.com/mail.html
【個別の経営相談に関する問い合わせ】
→ info@medical-takt.com
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
本稿のバックナンバーは、メルマガ運営サイト「まぐまぐ」にも【トラブル発生!!クリニック事件簿】として掲載しています。
(運営会社)株式会社レゾリューション