2019.03.12
クリニック奮闘記
Vol.330 院長の体調不良により契約が破談に
クリニックの事業承継(M&A)では、セオリー通りにいかないことも多く、無事に営業譲渡が完了するまでに多くの障害が待ち受けています。予見可能で且つ対応可能な問題であればいいのですが、対処困難な場合もあります。本稿では、売主側のドクターの体調不良による契約不成立の事例をご紹介したいと思います。
A内科医院は30年もの間、地域医療に貢献してきた老舗のクリニックです。院長先生のお人柄もよく、現代の赤ヒゲ先生と地域の患者の信頼も厚い様です。そのA院長は80歳を機に引退を考え、第三者に診療所を譲渡することになりました。同じ同門の40歳の内科医(B先生)で、A院長との相性が良かったこともあり基本合意契約まではトントン拍子に進んでいきました。ところが、事態は一変しました。A先生が脳卒中で倒れてしまったのです。幸い命に別状はありませんでしたが、療養生活が続くであろうことは想像ができます。今回の仲介役のコンサルタントは、A先生の容態が落ち着くのを待って、お見舞いがてら、今後の方針を伺うことにしました。
コンサルタント
「基本合意まで締結しているので、あとは代金の決済をして引渡をすれば終了です。」
A先生
「そうですね。妻を通じて連絡しますのでお待ち頂けますか?」
コンサルタントはA先生からの連絡を待っていましたが、その間に体調が急変し帰らぬ人となってしまいました。基本合意契約は締結しているとはいえ、具体的な引継ぎは何も受けていないため、B先生はどうしてよいか分からず、途方に暮れるばかりです。
コンサルタント
「契約は有効ですから、継承の手続きを進めていきましょう。B先生は患者対応を第一に考えて下さい。手続き的なことは私が進めていきます。」
医療法人ではない個人診療所の場合、管理医師が不在になった時点で診療所は"閉院"となります。今回の事例も同様にA内科医院は閉院となります。しかし診療は継続しなければ患者が困ってしまいます。直ぐにB先生のクリニックとして『診療所の開設届』を提出しますが、問題は『保険請求手続き』です。通常の手続きであれば保険医療機関の指定がなされるのは1月後です。クリニックを承継する場合は、継承する先生の勤務実績を届出することにより、保険医療機関として訴求願い(1月のブランクを待たずに指定を受けること)として届出を行います。今回は、全院長が急逝してしまったため勤務実績がありませんでしたが、厚生局に事情を説明し、特別に認可を受けることができたのです。
(まとめ)
本稿の事例は特殊な事案かもしれませんが、クリニックを継承する側のドクターから見るとリスクとして捉えられます。保険の遡及手続きは無事にできましたが、他の事例も同様に認可されるとは限りません。個人診療診療所の事業承継の場合には、想定しておかなければならないリスクとしてご紹介させて頂きます。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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