Vol.147 医療法人と理事長報酬を考える

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クリニック奮闘記

2018.05.30

クリニック奮闘記

Vol.147 医療法人と理事長報酬を考える

クリニック開業当初は個人事業としてスタートしますが、「クリニックの利益=院長の利益」として税務処理上、事業所得として累進課税されます。これに対して医療法人の場合は、「クリニックの利益=医療法人の利益+理事(長)報酬」となります。理事(長)報酬と法人の利益のバランスが重要になるのですが、医療法人の資金繰り(経営)に支障をきたす様な過大な理事(長)報酬の支給は避けなければなりません。本稿では、経営的な視点と税務的な視点の両面から医療法人の報酬について検討してみたいと思います。

 

医療法人Aクリニックは決算を迎えています。法人化して2年連続して増収増益という内容で、院長先生もご満悦?かと思いきや・・・・・。

 

A院長「今年も法人税の納税額は大きいね。来期は私の理事長報酬を上げたいのだが。」

税理士「理事長報酬の所得税は最高税率なので、報酬の増額によって納税額が増えることになりますが・・・・。」

A院長「自宅を新築したいと考えているので増額したいんだ。」

 

医療法人化することによって得られる節税メリットのスキームを簡単に解説します。

 

(例)個人事業の場合 クリニックの利益3000万円 → 所得税の累進課税

   医療法人の場合 クリニックの利益3000万円 → 理事長報酬2000万円

                           医療法人の利益1000万円

 

上記の例では、院長個人の「所得税率」は同じなのですが、医療法人の利益1000万円に対しては所得税よりも低い税率の法人税が課税されることになります。所得税率と法人税率の税率差を利用した節税スキームです。節税された分は医療法人に内部留保され、事業資金として運用していくことになります。ところが、この場合、個人の可処分所得は減少していることになりますので、事例の様に自宅を新築(購入)する様な場合、個人の返済能力では対応できなることが出てきます。そのためA院長は報酬の増額を望んでいるのですが、顧問税理士には心配要素がある様です。

 

(まとめ)

増税になったとしても、やむを得ず、個人の可処分所得を増やす必要がある場合はあります。事例の様に自宅を新築する様な場合、税理士が懸念しているのは医療法人の財務体力の脆弱さにあります。

設立2年の医療法人では十分な内部留保は貯まっていません。今後の診療報酬改定のインパクトを考えると、10年先まで増収増益は難しいでしょう。現状の資金繰りの中で最大限の理事長報酬を支給した場合、医療法人の内部留保が増えることはなくなります。逆に理事長報酬は増額されますが、住宅ローン等の支払いに充てられるため、個人資産としても残っていません。資金使途が住宅ローンとなると、返済期間は20年超と考えられますので、繰り上げ返済しない限りは、返済期間終了まで医療法人の内部留保は増えないと考えられます。事業への設備投資も消極的に考えざるを得なくなります。この状況での銀行融資では好条件では調達が難しく、ますます財務体質の悪化を招きます。クリニックの事業計画と個人の資産形成のバランスを考えてみましょう。

 メディカルタクト 代表コンサルタント  柳  尚信

 

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