2018.06.08
Vol.154 誰のための投資なのか? 非常勤医師が使う機器の採算性を考える
設備投資を行う際、次のことを検討しなければなりません。
・購入のための資金調達はどうするのか?
・購入後の採算性は?
"節税対策だけ"のために購入するのであれば、こんなことは検討しなくてもいいのでしょうが、事業の場合は費用対効果(投資に対するパフォーマンス)を考えなければなりません。
院長先生が自分のために投資する場合でも、この様に思案しなければならない高額投資を、非常勤医師が使う医療機器について検証してみたいと思います。その投資は本当に必要なのか?代替案はないのか?を中心にみていきましょう。
A内科クリニックは循環器を中心に、生活習慣病の患者を専門にしています。高齢者の心疾患を中心に地域医療に貢献してきましたが、同地区にある消化器内科閉院にともない胃腸疾患の患者も増えてきました。A院長にとっては専門外であるため、出身医局に相談したところ、消化器内科のドクターを紹介してもらえることになりました。週2回の勤務で十分ではありませんが、ある程度のフォローは出来る様になりました。消化器疾患の患者の増加が感じられる様になったため、A院長はアルバイト医師Bに対して、内視鏡検査の実施を提案してみました。
A院長「この地域には内視鏡の専門医がいないんだよ。当院でやってみる気はないかね?」
B医師「喜んでさせて頂きますよ!」
A院長「では早速、メーカーを読んで器機の選定をしていこう」
二つ返事で快諾したB医師のために、A院長は内視鏡システムを購入しようと考えています。トイレ設備の問題もあるため上部検査のみとしますが、カメラ2本と洗浄機を併せて約1000万円の投資です。
(まとめ)
ここで検討しなければならない課題をあげてみましょう。
・器機の採算性のポイント
器機の採算性で考慮すべき直接コストとしては、毎月のリース料(購入の場合は減価償却費と支払金利も考慮する)、医師給与、看護師給与があります。(厳密にはここにクリニックのランニングコストが上乗せされるのですが割愛します。)上部内視鏡検査は保険診療で行った場合15000円が見込まれますので、先のコスト+クリニックの利益を考えた場合の目標となる検査件数を算出します。
・損益分岐点達成のための営業目標
目標となる検査件数は、担当医師と共通の認識がなくてはいけません。クリニックの利益を加味した目標となると、簡単なクリアーできる目標ではなくなります。そこには営業努力が必要になるのですが、担当医師が「営業努力」をストレスに思わない目標にしなければなりません。場合によっては歩合給(インセンティブ方式)が有効に働く場合もありますが、医療の質の担保と数値目標のクリアーの双方のバランスが求められますので、導入には慎重さが必要です。
・内視鏡医の継続的な確保
本稿では出身医局の好意で、運よくドクターが見つかりましたが、いつも上手くいくとは限りません。B医師もいつまで勤務してもらえるかも分かりませんし、代わりの医師がすぐ見つかるかもわかりません。最悪の場合は、医師が見つからず、内視鏡検査が行えない状況が発生することです。
(まとめ)
最終的にA院長は、コストが半分になる中古の内視鏡セットを購入することにしました。これによって損益分岐点も下がりドクターの精神的負担も軽減されます。歩合給を設定し検査件数を増やすことも考えましたが、クリニックにおけるサービスの一つとして位置付けることにしたのです。赤字にならなければ、それ程の黒字も期待もしません。これまで来院してきてくれている高齢者患者が、安心して来院できるクリニック作りをコンセプトに考えることにしたのです。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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