2018.06.22
Vol.164 クリニックの診療方針とアルバイト医師
患者数が増えることによりアルバイト医師を雇用することがあります。同じ出身大学や医局であれば、先生方が学んできた医療、診療スタイルに違いはなく標準化することは難しくないと思いますが、他大学出身の場合は、診療方針、薬の処方だけでなく、医療に対する姿勢自体が異なることもあります。クリニックの院長としては、ドクターが変わっても同じスタイルの診療スタイルに統一したいところですが、そんなに簡単なことではありません。本稿では、実際の現場で起こっていることをみて見たいと思います。
Aクリニックでは週2回、循環器のドクターBにアルバイトに来てもらうことになりました。A院長は糖尿病専門医であるため、B先生による循環器外来との併科はクリニックの強みになるといえます。B先生は循環器の専門医で、診断力の高さは勤務先の大学病院の同僚にも定評があります。そんなB先生の名前を聞きつけた患者は徐々に増え始め、クリニックの看板になるまでには時間はかかりませんでした。
B先生「〇〇さん。毎週きてくれるかな?血液検査とエコーでフォローしていくよ。」
患者 「はい、先生、宜しくお願いします。」
この様にB先生は評判の通りの医師で、しっかりと検査を行った上で診断を重ねていきます。こうした丁寧さが患者の評判になっているのですが、A院長としては手放しで喜べない事情もある様です。
A院長「しっかりと心エコーをして頂けるのは有難いが、その分、他の外来患者の待ち時間が長くなるなあ。予約制にして検査技師の採用も行った方がいいかな。B先生にも相談してみよう。」
B先生「A先生、エコーは技師に任せたくないんですよ。診断の要でもあるから自分の目で見て診断したいんです。」
病院であれば時間をかけて診断する体制でよいかと思いますが、クリニックでは「数の原理」を働かせなければなりません。「質と量のバランス」が求められるのです。A院長としては循環器疾患の専門外来を継続させるためには、採算性を考えなければなりません。つまりB先生ほか医療スタッフの人件費や、経費が賄えて、かつクリニックに利益にも貢献しなければならないのです。クリニックの方針としては、診療診断の質の担保をしながら採算性の追求をするためにも、技師を採用し検査を予約で行う方針に変更したいと考えています。この点について先生間で意見の一致がみられず、なかなか改善できないでいます。もう一つの頭痛の種は、一人の患者に対して血液検査を毎週行っていることです。B先生にしてみると、たまにしか来ないので、しっかりとフォローしたいと考えているのでしょうが、保険請求は査定の対象となります。検査会社へ費用の支払いは発生しますので、クリニックとしては持ち出しです。検査の実施によって患者の窓口負担も大きくなります。これは長い目で見た時に、患者離れの原因にもなります。
(まとめ)
クリニックの経営的にはインパクトのある問題ではありますが、診療に来て頂いているドクターには、なかなか言いにくい問題でもあります。個々の医師の診断領域に踏み込んで、制限を掛けることはしにくいですが、患者負担についての視点は持って頂いた方が良いと思います。アルバイト医師の場合、この様な経営的な要因には関心が薄い場合がありますが、理解を求めることは必要です。経済合理性の中でしかクリニックの診療は継続していくことはできないからです。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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