2018.06.28
Vol.168 物件オーナーと店子の関係~オーナーが医師の医療モール
クリニックを開業する一般的なスタイルとしてテナント開業があります。物件オーナーから一区画を賃貸する訳ですが、この大屋と店子の関係は利益相反関係にありますので、いい関係のときばかりではありません。契約内容にかかわるトラブルもあれば、使用していく中でのトラブルもあります。物件オーナーが不動産のプロであれば、トラブルの対処法は心得ているのですが、医師がオーナーである医療モールでは、どんな問題が想定されるでしょうか?本稿では、そのリスクについて検証していきたいと思います。
A医師はB医師が所有する医療ビルにテナントとして入居し、そこで開業することにしました。物件を決めた最大の理由は、オーナーが不動産業者もしくは賃貸業を営む個人でなく、医師であることにあります。同業者の方が、何かと理解し合えるのではないかと考えたのです。A先生が入居することにより、3診療科(内科、整形、耳鼻科)が入居するクリニックビルになったため、B先生は医療連携のための様々なシステムを検討する様になりました。診診連携がスムーズになるのであればと、他の先生も前向きに検討をし始めた結果、次のことをクリニックビルとして取り決めたのです。
・共通の受付システムを導入し、共用部に順番待ちのモニターを設置
実際の運用については各クリニックが独立して行っていますが、共用部のモニターを含め全てのシステムはB先生がオーナーの不動産管理会社が所有管理し、各クリニックの先生方にレンタルする形式をとっている。
・患者の送迎バスの利用
送迎車については外部業者に委託し、費用は3クリニックで案分する。
・共同の駐車場の運営
隣地にB先生所有の土地があるため、ここを有効活用し時間貸のパーキングとして利用する。利用料は1時間無料チケットをテナントのクリニックが購入し、それぞれの来院患者に配ることとする。
この様に患者サービス向上の観点から導入されたサービスですが、利便性と同時に問題も上がってくるようになったのです。
・受付予約システムに対するクレーム
来院患者数の多い整形外科と耳鼻科では、その有効性を発揮するところですが、内科では無用のモノとなってしまっています。繁忙期には70人を超える来院患者がありますが、通常は50人程で待ち時間も30分もありません。内科のA先生システムの費用対効果が合わないと感じる様になりました。内科のA先生は運用をストップ、利用料のみB先生に支払うことになるが、システムの更新時(5年後)には各クリニックの単独運用に切り替える方向で検討中。
・送迎バスの費用負担の不公平感
専ら足腰の悪い整形の患者向けのサービスになっており、内科患者では若干の利用はあるものの、耳鼻科に関しては殆ど利用されていない。クリニックビル全体としての利用状況が上がらないため半年で打ち切りになる。
・駐車券発行の不公平感
複数のクリニックを受診する患者に対して、どちらか一方のクリニックが負担するのは不公平であるとの意見が出る。駐車券は一旦B先生が全額立替、1階に併設されている調剤薬局にて駐車券を発行することとし、その際に受診クリニックを確認し、月単位で精算することにする。
(まとめ)
不動産のオーナーが医師の場合、大屋と店子の関係だけでなく、診診連携における医師としての関係にも影響を及ぼしてきます。患者の利便性を考えてシステムで連携することは良いことですが、全員にとって公平公正なシステムとして運用するには問題が山積しています。オーナーが企業である場合の医療ビル(医療モール)の場合は、テナント間の不利益を吸収してもらうことができますが、事例の場合であれば、運用面は個々のクリニックで対応していかなければなりません。私見としては、ドクターがオーナーである医療ビルの場合、大屋と店子以上の関係にならない様にした方が、よいのではないかと思っています。賃貸契約自体は20年以上続きますので、不必要なトラブルの火種は抱えない方が良いのではないでしょうか。
メディカルタクト 代表コンサルタント 柳 尚信
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