Vol.432　クリニックの事業承継後のリスクに備える |クリニック奮闘記|メディカルタクト

2019.08.20

Vol.432　クリニックの事業承継後のリスクに備える

クリニックの事業承継、特に第三者への事業譲渡のときはトラブルになることが多いのです。売主買主の双方が、『こんなはずじゃ、なかったよ』という状態になってしまうのです。そんなこの無い様にするために契約書があるのですが、"契約書の文言"について言及する段階では弁護士の登場の可能性が高まっています。そうなると、訴訟とまではいかないまでも、交渉が長引く覚悟をしなければなりません。トラブルは最小限にしたいものです。万一の時には、最小限の侵襲で短時間で収束させることができるように考えておきたいところです。

一番多いトラブルは、収入が予想を下回っていることです。営業権の評価を行って売買金額を設定している場合、買主側からすると文句を付けたくなるのは心情的には理解できます。しかしながら、ドューデリジェンスの段階である程度は把握できたはずです。製造業や販売会社などのM&Aでは、見えにくい"ノウハウ"が存在しています。製造工程に関する特殊事項と呼ばれるもの、また販売会社では独自の販売ルートがあるのです。（一部のスタッフとの結びつきが強く、そのスタッフが退職すると販路も途絶えてしまう）

医療機関もこれと同じです。収入の根拠が"立地"にある場合。"院長個人のスキル"にある場合。後者であるときは、第三者が承継し難い環境であるといえます。従って事業承継後に減収に転じても仕方がないのです。診療行為の中味についても精査しましょう。ご自身の診療スタイルと合致しているのか。また対応可能な領域なのか。最も基本的で当然のことなのですが、契約時にドューデリジェンスを行っている仲介業者は殆どいません。しっかり精査すべきポイントなのです。また良くも悪くも患者は変化を嫌います。診療スタイルを急に変更すると、これまでの患者は離れる可能性が出てきます。事業承継の原則は"歴史の継承"です。前院長が残されたものを踏襲しつつ、徐々に変化を加えていく様にしましょう。

他にも想定できない様なトラブルもあり枚挙にいとまがありません。売主のリスク回避はとしては、契約、引き渡し後はクリニックに関与しないことが鉄則です。逆に買主側からすると、売主との関係は残しておきたいと気持ちもあります。予期しないトラブルが発生したさい、特に費用が発生することになった場合に、その費用負担をお願いする必要があるからです。先述の例でいいますと、減収による補償（営業権の評価）を求めたくなるものです。医療法人であれば、一定期間、理事職にとどまってもらうことで、責任追及する場を持つことが可能です。（企業の場合は2年乃至3年程度は役員に留まり契約後の人質とすることがあります）また、代金を分割払いにすることができれば、トラブルが発生した際の債務を減殺することもできます。

（まとめ）

契約のリスクヘッジは双方の利益が相反する中で行いますので、難しいテーマではあります。契約時の力関係が影響するからです。"買いたい！""売りたい！"という意思が強くなるほど、相手に譲歩する余地を生んでしまいます。交渉事の難しさはここにあります。どんな取引においても、この"リスク"が内在していると理解した上で契約に臨みましょう。

メディカルタクト　代表コンサルタント　　柳　　尚信

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