Vol.448　所得補償保険の考え方

事業をするということは、経営上さまざまなリスクを背負うことになります。クリニックの場合、経営者である院長先生は、患者だけでなく従業員、取引先そして家族に対して責任を負うことになります。『家族以外の他人にも責任があるの？』と思われるかもしれませんが、経営者の社会的責任というのはそういうものなのです。具体的には死亡時のリスクとして生命保険があります。怪我や損害賠償責任に対しては損害保険で担保することとなります。その中で、本稿では所得補償保険についての考え方に触れてみたいと思います。保険料が非常に高いため合理的に掛けたいものです。

 

所得補償保険は、院長先生が『就業不能状態（働けない状態）』になったときに、補償されるもので、保険のカテゴリーとしては"損害保険"に入ります。補償内容としては、文字通り、"所得を補償する"保険なのです。就業不能が保険の支給事由ですから、怪我と病気の両方をカバーすることができます。やがて仕事に復帰するまでの間、休業時の所得を補償、つまり生活費や経費の支払の費用に用立てる保険なのです。問題は、保険金額の設定にあります。できれば目一杯入りたいところですが、この保険・・・実は保険料が非常にお高いんです。しかも個人事業の場合は必要経費になりませんから負担感も大きいのです。医療法人の場合は、院長を被保険者、受取を医療法人にすることで損金扱いにすることができます。※（注）

では保険金額の設定について解説していきましょう。

保険金額の設定については、毎月の固定経費を設定根拠とします。最低限必要な項目として以下を上げておきますので参考にして下さい。

・クリニックの家賃及び駐車場

・スタッフの給料

・医療機器等のリース料

・借入金の返済

・個人の住宅ローン等

・生活費

基本的な考え方は、休んでいても必要な支出ということです。スタッフの給料は払わなくても？　という意見がありますが、クリニック都合で休診にする場合、自宅待機の状態であっても、法的には給料を支払う必要があるのです。上記の項目に金額をあてはめて保険金額を計算してみましょう。

 

※（注）個人事業の場合MS法人（メディカルサービス法人）を活用して損金扱いにすることは可能です。

 

（まとめ）

保険金額の設定をする際、キャッシュでコントロールできるリスクに関しては除外します。火災保険に入るのは、火事で資産を焼失した場合、数千万円の損害をキャッシュで補てんするのが困難であるからです。自動車保険に入るのも、対人事故で数億円の損害賠償が発生する可能性があるからなのです。では所得補償保険はどうでしょうか？　おそらく休業期間は一月程度あると考えられます。クリニックでは診療報酬が2か月遅れで振り込まれてきます。内部留保（貯金）と、この診療報酬でヘッジできるリスクについては保険を掛ける必要はないという考え方もできます。加入に際しては、熟考の上で合理的な保険金額を設定をして下さい。

 

メディカルタクト　代表コンサルタント　　柳　　尚信

 

 

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