Vol.562　M&A時の借入金の考え方

M&Aの仲介業者はクリニックの譲渡のご相談を受けた際には、まず決算書などの経営データを精査します。これをデューデリジェンスといいます。企業のM&Aの様な複雑さは無いにしても、一定のルールに基づいてデータの精査を行っていきます。その中で本稿では、決算書上に残っている借入金の取扱いについて考えてみたいと思います。

 

医療法人Aクリニックの理事長は、後継者がいないクリニックを第三者に営業譲渡することを検討中です。院長の年齢は現在６５歳。２年～３年をかけて患者の引継ぎを行いながら継承していけば患者にも迷惑を掛けないで済むだろうと考えています。A院長は医療コンサルタントに後継者探しを依頼するとともに、顧問税理士には税務的な問題についてサポートしてもらう様に依頼しました。

 

A院長

「このクリニックには"どれくらいの価値"があるのでしょうか？」

 

顧問税理士

「営業権込みの価格で７０００万円が妥当だと考えています。但し検討事項が一つあります。医療法人の借入金のことですが・・・・。」

 

５年前にクリニックの改修工事を約３０００万円かけて行いました。また電子カルテと生化学の検査機器等の導入に５００万円をかけています。これらは全て銀行からの借り入れで賄っています。A先生の手取りとしては７０００万円－（３０００万円＋５００万円）＝３５００万円となります。（事業スキームについては、ここでは触れないでおきます）

逆に購入する先生の立場で考えると、準備しなければならない資金の総額は、７０００万円＋１０００万円（当面の運転資金）＝８０００万円が必要であり、これを銀行から資金調達しなければなりません。しかもキャッシュフローは運転資金の１０００万円しか残りません。

 

事業承継の場合、医業収入（患者数）について担保されていると思われますが、銀行の評価は若干異なっています。事例の場合、売却価格の７０００万円がクリニックの価値（営業権＋資産）として取引されようとしていますが、営業権については融資の際の担保とはなりません。A先生が診療していることによる価値であり、１００％を引き継ぐことができないからです。従って、足らずの部分は自己資金して準備しなければならないのです。営業権に対する銀行の評価は基本的には"ゼロ"ですから余程の資金力がなければ購入することはできません。

幸いAクリニックは医療法人です。

法人の売却に伴って借入金の引継ぎも可能です。無理に精算せず借入金ごと売却することも可能なのです。

 

（まとめ）

事例の場合、借入金はそのまま引き継ぐのも一つの方法であると考えます。

A先生には３５００万円を差し引いた残金（３５００万円）で購入する様にすればよいでしょう。医療法人の借入金として３５００万円残りますが、返済のための資金調達は不要となります。その分、運転資金として借りることもできるかもしれません。譲渡後（購入後）のキャッシュフローを重視したスキームを検討していきましょう。

 

メディカルタクト　代表コンサルタント　　柳　　尚信

 

 

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